中古住宅を築年数だけで見ない「THK住宅査定」という考え方
中古住宅の仕事に関わっていると、以前から少し不思議に感じることがあります。
同じ築30年の家でも、きちんと定期的にメンテナンスされてきた家。
屋根や外壁を直し、設備を更新してきた家。
耐震補強をして、断熱性能まで高めた家。
一方で、ほとんど手を入れず、そのまま30年が経過した家。
当然、建物の状態も、これから安心して住める年数も、快適性も違います。
ところが、中古住宅の価格を考える場面では、こうした違いよりも「築何年か」が大きく影響してしまうことがあります。
私は、ここにずっと違和感がありました。
「築20〜25年で建物価値がほぼゼロ」という問題
これは私だけが感じていることではありません。
国土交通省も2014年、「中古戸建て住宅に係る建物評価の改善に向けた指針」を公表しています。
その背景として指摘されているのが、
個々の住宅の状態にかかわらず、木造住宅では築後20〜25年程度で建物の市場価値をほぼゼロとする取引慣行
でした。
もちろん、現在のすべての不動産査定が「築年数だけ」で決められているわけではありません。
国もこの問題を改善するため、住宅の性能や維持管理の状態、リフォームなどを価格へ反映する方向へ制度や査定方法の見直しを進めています。
2015年には、不動産流通推進センターの「既存住宅価格査定マニュアル」も改訂され、築年数だけではなく、各部位のグレードや維持管理状態などを入力して建物価格を算出する仕組みが取り入れられました。
つまり、
「古いから価値がない」のではなく、「今、その建物がどんな状態なのかを見よう」
という方向へ、住宅の評価そのものが変わろうとしているのです。
「住宅査定士」という資格
私は「住宅査定士」という資格を持っています。
住宅査定士は、一般社団法人 建物評価研究機構(THK)が認定している資格です。
国家資格そのものではありませんが、受講できるのは宅地建物取引士、建築士、不動産鑑定士のいずれかの資格保有者に限られており、講習と試験を経て認定されます。
そして、この住宅査定士が使う評価方法のひとつが、
「THK住宅査定システム」
です。

この査定方法で、私が特に重要だと思っているのがここです。
THK住宅査定では、建物を単純に
「木造・築30年」
というひとつの塊として見るのではありません。
家をひとまとめにして評価しない
この査定方法で、私が特に重要だと思っているのがここです。
THK住宅査定では、建物を単純に
「木造・築30年」
というひとつの塊として見るのではありません。
例えば、
- 基礎
- 躯体
- 屋根
- 外部建具
- 内部建具
- 外部仕上
- 内部仕上
- 住宅設備機器
- 電気設備
- 給排水衛生設備
- 空調設備
- 太陽光発電
というように、住宅を構成する部位ごとに分けて考えていきます。
さらに、耐震性能、断熱性能、長期優良住宅認定、採光・通風、防犯、バリアフリー、耐火性能などについても評価し、リフォームによって性能や状態が回復した部分については、その内容を建物価値へ反映させる考え方になっています。
これなら、
「築30年だから○○万円」
ではなく、
「この30年間、この家に何がされてきたのか」
を見ることができます。
私は、この違いはとても大きいと思っています。
例えば、同じ築30年でも
仮に、ほぼ同じ時期に建てられた2軒の木造住宅があったとします。
一方は、
屋根や外壁を適切にメンテナンスし、
傷んだ部分を修繕し、
耐震補強を行い、
窓を交換し、
断熱改修を行い、
設備も更新している。
もう一方は、大きな修繕をせず30年間そのまま。
この2軒を、
「どちらも築30年だから建物価値はほぼ同じ」
と評価するのは、やはり不自然ではないでしょうか。
むしろ
これからあと何年、安心して快適に使える建物なのか。
そこを見る方が、住宅の本当の価値に近いと私は思います。
リフォームの「金額」ではなく「中身」を見ることも大切
ここはとても重要です。
「1,000万円リフォームしたから、建物価値が1,000万円上がる」
という単純な話ではありません。
同じ1,000万円でも、
キッチンや浴室などを新しくするリフォーム
と、
耐震補強や断熱改修、屋根・外壁・構造部分まで手を入れるリフォーム
では、建物そのものに与える意味が違います。
だからこそ、
何に、どのような工事をしたのか。
そして
その結果、住宅の性能や耐久性がどう変わったのか。
を見る必要があります。
THK住宅査定でも、建物の品質や劣化状態、リフォームによる価値の回復を評価する考え方が採用されています。
これは、性能向上リノベーションに関わっている私にとって、とても納得感のある考え方です。
家を大切にすることが、価値として残る社会へ
私は、中古住宅を単に「古い家」だとは考えていません。
古くても、構造を確認し、必要なところを補強し、断熱性能を高め、適切に修繕していけば、まだまだ長く暮らせる住宅はたくさんあります。
逆に、築年数が浅いというだけで、必ずしも状態のいい住宅とも限りません。
だから、
「何年経ったか」だけではなく、「どんな家なのか」を見る。
中古住宅市場が、もっとそんな方向へ変わってほしいと思っています。
そしてそれは売る人だけのメリットではありません。
買う人にとっても、
「なぜこの中古住宅がこの価格なのか」
という根拠が分かることは、とても重要です。
住宅の性能や状態が価格とともに説明されるようになれば、
「中古住宅だから不安」
という感覚も、少しずつ変わっていくのではないでしょうか。
中古住宅は「古さ」ではなく「中身」で選ぶ
THK住宅査定が唯一の住宅評価方法というわけではありません。
国土交通省の指針を背景に、既存住宅価格査定マニュアルや、不動産鑑定士向けのJAREA-HASなど、既存住宅を適切に評価するための取り組みは以前から進められています。
それでも、
「築年数が古い=建物には価値がない」
という感覚は、まだ社会にかなり残っているように感じます。
私は住宅査定士として、そして中古住宅のリノベーションに携わる者として、この考え方をもっと多くの方に知ってもらいたいと思っています。
家は、建てて終わりではありません。
手を入れながら使い続ける。
性能を高めながら次の人へ引き継ぐ。
そして、そのために費やしたものが、きちんと住宅の価値として評価される。
そんな中古住宅市場になっていけば、
「古い家を壊して新しく建てる」以外の選択肢が、もっと当たり前になる。
私はそう思っています。
これから、
「中古住宅の価値とは何なのか」
「住宅のどこを見ればいいのか」
「耐震や断熱改修は住宅の価値にどう関わるのか」
などについて、住宅査定士の視点も交えながら少しずつ書いていきたいと思います。
【参考】
・国土交通省「中古戸建て住宅に係る建物評価の改善に向けた指針」
・国土交通省「既存住宅価格査定マニュアルの改訂について」
・一般社団法人 建物評価研究機構(THK)「THK住宅査定システム」

