住まいの我慢は、我慢だと気づきにくい

冬の朝、布団から出たくない。

お風呂に入る前に、ちょっと気合いがいる。

冬になると、一度くらいは風邪をひく。

夏、家に帰って玄関を開けた瞬間、「暑っ」と思う。

こんなこと、ありませんか?

たぶん多くの人にとっては、

「冬なんだから寒くて当たり前」
「夏なんだから暑くて当たり前」

なのだと思います。

私自身も、長い間そう思っていました。

でも最近、住環境と健康についていくつかの研究を読みながら、改めて思うことがあります。

もしかすると私たちは、我慢していることにさえ気づかずに暮らしているのではないか。

「家のことで不満はありますか?」と聞かれたら

家について

「何か不満はありますか?」

と聞かれたら、

「特にないかな」

と答える人は、意外と多いのではないでしょうか。

雨漏りしているわけでもない。

給湯器が壊れているわけでもない。

寒ければ暖房をつければいい。
脱衣室が寒ければ、小さなヒーターを置けばいい。
窓が結露すれば、朝拭けばいい。
暑ければクーラーつけたり、扇風機や冷感グッズを使えばいい。

そうやって暮らせてしまいます。

そして何より、季節は過ぎていきます。

「今年の冬も寒いね」

と言っているうちに春が来る。

夏も、

「今年も暑いね」

と言いながら、やがて秋になる。

だから、根本的に何かを変えようというところまでは、なかなかいきません。

人間ドックで何か引っかかっても様子を見てしまう方もいらっしゃると思います。
「要精密検査」と書かれていても、すぐに病院へ行かないこともあるかもしれません。

まして住宅は、壊れたりしていて暮らせないとならない限り「今すぐ困る」ことが少ない。

それも、住環境の問題が後回しになりやすい理由のひとつなのかもしれません。

「普通」になってしまうと、気づけない

ただ、少し立ち止まって考えてみたいのです。

冬の朝、布団から出るのがつらいこと。

リビングから廊下へ出ると、急に寒いこと。

お風呂に入るために、気合いがいること。

夏、2階に上がった瞬間にむっとすること。

家に帰ってきたとき、玄関を開けると「暑い」と感じること。

これらは本当に、「家とはそういうもの」なのでしょうか。

長年同じ家で暮らしていると、その環境が自分にとっての基準になります。

だから、

「寒い家に住んでいる」

とは思わず、

「冬だから寒い」

と思う。

「家の中が暑すぎる」

ではなく、

「夏だから暑い」

と思う。

そう考えると、住まいの我慢というのは、我慢している本人が一番気づきにくいものなのかもしれません。

住まいと健康は、思っているより近い

住宅の健康性を評価するCASBEEの「健康チェックリスト」を用いた研究があります。

これは、家の中の暖かさ・涼しさ、静かさ、明るさ、清潔さ、安全性などを、住んでいる人自身がチェックして、住環境と健康との関係を見ていくものです。

研究では、こうした住環境の評価が高い人ほど主観的な健康感も高い傾向がみられ、冬の風邪や夏の睡眠不足といった季節ごとの健康状態との関係も分析されています。

さらに論文では、断熱性能を改善した場合に、冬の風邪や夏の睡眠不足の発生率がどの程度改善する可能性があるかについても試算しています。もちろん、これは一定の条件に基づく予測であり、「断熱すれば風邪をひかなくなる」という単純な話ではありません。

大切なのは、

住まいの暑さや寒さは、単なる「快適・不快」の話だけではない

ということです。

近年の研究でも、住宅性能と冬季の健康リスクとの関連は繰り返し指摘されています。2026年の研究では、冬季死亡への依存が高い地域において、断熱・結露防止工事の実施と冬季死亡リスクの低下に関連がみられました。研究自体も限界を明記しているため因果関係を単純には言えませんが、住宅の温熱環境が健康と無関係ではないことを示す一つの結果です。

でも、住宅のことは行動に移しにくい

ここが難しいところです。

健康のために、

少し野菜を増やす。
歩く時間を増やす。
お酒を少し控える。

こうしたことなら、今日からでも始められます。

ところが住宅はそうはいきません。

窓を変えるにもお金がかかる。

断熱材を入れるにも工事が必要です。

玄関ドアを変えるのも、冷暖房設備を見直すのも、それなりの費用がかかります。

だから、

「身体には良さそうだけれど、そこまでしなくても暮らせているし……」

となる。

これはすごく自然なことだと思います。

築25年の我が家
内窓を付けたり、天井裏に断熱材を追加したり、玄関ドアを変えたりと、少しずつ手を入れています。

正直、お金はかかります。

数年の光熱費だけで、すぐに工事費を取り戻せるとは思っていません。

でも、暮らしは明らかに変わりました。

住宅の性能向上にかけるお金の「元を取る」という考え方も確かにありますし、それも大事な部分です。
もちろん光熱費は変わってくると思います。
人によっては、医療費にも影響すると思います。

ただ、別の視点として、
あと10年、その家に住むとしたら。

20年住むとしたら。

その間ずっと、

「冬だから仕方ない」

「夏だから仕方ない」

と身体を住まいに合わせ続けるのか。

それとも、少しでも住まいの方を自分たちの身体に合わせていくのか。

長い時間で考えると、見え方が少し変わってきます。

その「当たり前」を、一度見直してみる

まずは、

「自分は何を当たり前だと思っているだろう?」

と、一度日々の暮らしを思い起こしてみてください。

冬のお風呂は寒くないですか。

朝、布団からすっと出られますか。

家の中で、寒くて行きたくない場所はありませんか。

夏、家に帰ってきたときの室温はどうでしょう。

夜、暑くて眠りづらいことはありませんか。

それまで「普通」だと思っていたことを、一度疑ってみる。

それだけでも、住まいの見え方は変わると思います。

CASBEEのような評価ツールも、本当の価値は「あなたの家は○点です」と点数を付けることではなく、今まで気づかなかった住環境に気づくきっかけをつくることなのではないかと、私は思っています。

前回紹介した研究でも、日本では住宅性能に関する制度や評価ツールは整備されつつある一方で、健康やQOLの観点から、実際の住宅選択を支える仕組みがまだ必要だと指摘されています。

家は、壊れてから考えるものだけではありません。

「暮らせている」ことと、
「健康的に、心地よく暮らせている」ことは、同じではありません。

今まで当たり前だと思っていたことの中に、身体がずっと我慢していることがないか。

ほんの少し、住まいに、暮らしに目を向けてもらえたらと思います。

そして、

「何かした方がいい気はする。でも、何をしたらいいのかわからない」

と思ったら、

そう、そんな時は、お話を聞かせてください。