住まいについて、私たちはどれくらい知っている?
家を選ぶときに大切なことと、住んでからの不満が違う
中古住宅の購入やリノベーションのご相談を受けていると、住まいについて考えることがたくさんあります。
最近、住環境と健康の関係についていくつかの研究を読んでいて、とても興味深い内容がありました。
それは、
住まいを選ぶときに「大切だと思っていること」と、実際に住んでから「不満に感じること」が、必ずしも一致していない
ということです。
家を選ぶときには重視されにくい「断熱」と「遮音」
国土交通省の「住生活総合調査」をもとにした研究では、住宅の個別要素に対する不満として、
- 遮音性 3位
- 断熱 5位
となっています。
ところが、住宅を選ぶときに重要だと思う項目では、
- 断熱性 12位
- 遮音性 14位
まで順位が下がります。
住んでみると気になる。
でも、選ぶときにはあまり意識していない。
なんとも不思議です。
一方で、家を選ぶ際には「日当たり」や「間取り」といった、昔から住まい選びで大切とされてきた項目が上位に挙がっています。
「日当たりのいい家がいい」
「南向きがいい」
「家族の人数に合った部屋数が必要」
こうした考え方は、長い間「いい家の条件」として私たちの中に根付いてきたように思います。
不動産情報でも、「南向き」「○LDK」「日当たり良好」といった情報は、今でもとても分かりやすく表示されています。
では、
「この家は冬、どのくらい寒いのか」
「部屋による温度差はどのくらいあるのか」
「窓の断熱性能はどうなのか」
「生活音はどの程度伝わるのか」
といったことはどうでしょう。
大切ではないのではなく、
そもそも判断するための物差しを持っていない
ということもあるのではないでしょうか。
「衣・食・住」と言うけれど、住まいについて何を学んだだろう
学校では調理実習をしたり、裁縫をしたりした記憶があります。
けれど、
「どんな住宅が健康的なのか」
「暑さや寒さが身体にどんな影響を与えるのか」
「断熱とは何のためにするのか」
「換気はなぜ必要なのか」
といった、実際の暮らしにつながる住まいの知識を学ぶ機会は、あまり多くなかったのではないでしょうか。
それでも大人になると、突然、何千万円という住宅を選ぶことになります。
中古住宅なら、
「この家は直せば快適になるのか」
「どこを優先して改修すればいいのか」
という判断まで必要になります。
住まいについて知らないまま選ばなければならないとしたら、なかなか難しい買い物です。
「伊豆って、そんなに寒くないですよね」
伊豆で中古住宅をご検討されている方から、よく聞かれる言葉があります。
「伊豆って、そんなに寒くないですよね」
確かに、北海道のような厳しい寒さではありません。
でも、冬は冬。
伊豆でも寒いものは寒いのです。
そして、
「温暖な地域であること」と「冬、家の中が暖かいこと」は別の話です。
住宅と健康についての研究では、寒冷地では冬季の死亡増加が比較的抑えられ、逆に温暖な地域で冬季死亡への依存が高くなる傾向が指摘されています。
その背景として、寒冷地では暖房習慣が定着していることや、住宅の断熱性能の違いが関係している可能性が示されています。
また、2026年に発表された研究では、冬季死亡への依存が高い地域において、断熱・結露防止工事の実施と冬季の健康リスク低減との関連も示されています。
もちろん、健康には年齢、生活習慣、医療環境、社会的な要因など多くのものが関係します。この研究も、住環境だけですべてを説明できるものではないとしています。
それでも、
「暖かい地域だから、住宅の寒さはあまり気にしなくていい」
とは言えないことは、知っておいていただきたいと思います。
断熱は「全部やらなければ意味がない」ものではありません
もちろん、完璧に、家全体を断熱工事できれば、それに越したことはありません。
ただ、私たちが扱う中古住宅は、一棟一棟条件が違います。
築年数も違う。
構造も違う。
これまでに行われた改修も違う。
そして何より、
暮らす人も、暮らし方も、予算も違います。
だから私たちは、
「断熱工事とはこうあるべき」ではなく、
「やらないより、今できることをやろう」
という考え方を大切にしています。
窓を改善する。
天井や床の断熱を見直す。
普段長く過ごすLDKを中心に環境を整える。
冷暖房設備の選び方を見直す。
その住宅、その暮らしによって、効果的な方法は変わります。
大切なのは「断熱工事をすること」そのものではなく、
今ある住まいで、どうすればより健康的で心地よく暮らせるのか
を考えることだと思っています。
心地よい住まいは「気づかない」のかもしれない
住環境を良くした効果は、写真にはなかなか写りません。
新しいキッチンなら、目に見えて変化が分かります。
でも、
「朝起きたときに寒いと思わなくなった」
「お風呂に入るのがおっくうではなくなった」
「以前より無理なくエアコンが効くようになった」
といった変化は、写真では伝わりません。
けれど、毎日の暮らしにとっては、こうした小さな変化こそ大きなものです。
もしかすると、
「気づかないことが、いいこと」
なのかもしれません。
暑さや寒さを我慢しない。
家の中の温度差を意識しない。
普通に動いて、普通に眠り、普通に過ごす。
そんな暮らしを支えるのも、住宅の役割です。
住まいを知ることから、心地よい暮らしへ
私たちが目指しているのは、住宅性能の数字を高くすることそのものではありません。
健康的で心地よい暮らしを。
そして、建物に命を奪われることがないように。
住まいについて少し知るだけで、家の見方や選び方は変わるかもしれません。
中古住宅を購入するとき。
今の家をリノベーションするとき。
「何をすればいいのか分からない」とき。
まずは、自分たちの暮らしと住まいについて知ることから始めてみてはいかがでしょうか。
株式会社アクリでは、建物だけを見るのではなく、そこでどんな暮らしをしたいのかを伺いながら、今ある住宅で何ができるのかを一緒に考えています
【参考文献】
本間義規「健康で快適な住宅の選択行動」
『保健医療科学』2024年 73巻4号 p.305–314
住宅を選ぶ際に重視する項目と、実際に居住してから感じる不満の違いなどについて、国土交通省「住生活総合調査」をもとに整理されています。住宅選択には健康やQOLの観点からの支援も必要であることが述べられています。
清水和真・森太郎・大沢飛智・林基哉「後期高齢者の健康と住環境に関する研究―二次医療圏ごとの死亡の季節依存と医療費の分析」
『日本建築学会環境系論文集』2026年 91巻844号 p.305–315
住環境と季節性死亡、医療費との関係を全国の二次医療圏を対象に分析し、断熱・結露防止工事と冬季の健康リスクとの関連などを検討しています。
いずれもJ-STAGEで全文を閲覧できます。

